モリダス宣言

NPO法人よこはま里山研究所(NORA)の発展形として、横浜と多摩の森づくりの仲間とともに新しい団体を立ち上げた。
名前は「モリダス」。
都市近郊の里山について、市民協働で保全利用していくガバナンスの仕組みを作る。
そのために、森づくりのリーダーを出す。
だから、モリダス。

それでは、なぜモリダスを立ち上げたのか?
その経緯と設立の趣旨、さらに今後の方向性について述べよう。

1.市民参加による森づくり活動の転換―森林ボランティア活動の停滞が意味すること


一般の市民が森づくりに参加する森林ボランティア活動は、1990年代に全国に広がり、2000年代には政策的な後押しが強まって社会に定着した。
しかし、2010年代に入る頃から、ボランティアの高齢化が進み、担い手不足という問題が顕著になっている。

一方、近年、特に2011年の福島原発事故以降、地域の森林・里山資源をいかして自律的な仕事や暮らしを志向する若い世代の動きが目立つ。
たとえば、地域の森林をいかす自伐型林業は、地方で暮らすための仕事(ナリワイ)のひとつとして広がっている。

すると、森林ボランティア活動の停滞は、人びとの森に対する関心が下がったからではなく、高齢者が無償で森づくりに参加するというかたちが、次世代の志向性と合わなくなったからだと考えられる。
人口減少社会に生き、将来の暮らしが見通しにくい現役世代の動きからは、森づくりや里山保全を余暇活動とするのではなくて、仕事にしたいというニーズの高さがうかがえる。

2.市民参加による森づくり活動の専門性―安全に、楽しく、価値ある活動

1990年代の森林ボランティア活動は、多くの市民の目を森に向けさせようとした。
このため、「怪我と弁当は自分持ち」という合言葉で、山仕事の技術や経験を問わず、素人で構わないから、自分の意志で活動に参加することを重視した。
国内の森林荒廃と世界的な森林破壊は、森林の所有者だけではなく一般の市民も考えるべきであるという問題意識から、森に入るハードルを下げることで、多くの人びとを招き入れた。

こうした理念は共感を呼び、森づくり活動団体は全国的に急増した。
しかし、そのために森林ボランティアは素人集団として捉えられて、無償で活動することが当然と考えられる原因ともなった。
行政による支援制度が拡充していっても、多くの場合、森づくりに必要な備品や消耗品の費用を補助するだけだった。
森林ボランティアの専門性を評価し、対価を支払うべき公益サービスの提供者として認められてこなかった。

こうした背景を踏まえると、市民参加による森づくり活動を仕事にするためには、その専門性を社会に明示していく必要があるだろう。
ここで私たちが考える専門性とは、次に示すとおり、「安全に、楽しく、価値ある活動」を普及していくための技術・技能である。

  1. 「安全に」 本人が安全に活動できるのはもちろん、参加者の安全に気を配り、事故や怪我を防ぐことができる。くわえて、万が一の事態にも冷静に的確に対応できる。
  2. 「楽しく」 参加者とコミュニケーションをとりながら、参加者が楽しく活動できるとともに、その活動にやりがいを感じられる場をつくることができる。
  3. 「価値ある」 森づくり活動がもたらす公益的な機能を発揮できるように、適切に目標を立てて施業を進め、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回しながら、活動内容を充実させることができる。

3.安全に、楽しく、価値ある森づくり活動の普及戦略・方法

私たちには、「安全に、楽しく、価値ある」森づくり活動を普及していく戦略と方法がある。
それは、これまでの森林ボランティア活動の経験を引き継ぎ、体系化するとともに、多摩・三浦丘陵の森づくり活動リーダー(希望者含む)を主たる対象として、効率的に指導者養成を図ることである。

1)安全な森づくり活動

森づくり活動における安全性を高めるための取り組みは、さまざまな現場でおこなわれてきた。
しかし、現場によって、指導者によって、やり方が異なるという現状のままでは、安全な森づくり活動を推進していくには不都合である。

そこで、私たちは森づくり安全技術・技能全国推進協議会(FLC)と連携することにした。
この非営利団体は、テキスト『森づくり安全技術マニュアル』制作し、「森づくり安全技術・技能習得制度」を運用しながら、森林ボランティアなどによる森づくり活動の安全性向上を図っている。

モリダスは、この制度の普及のためにFLCの地域協議会となるために申請し、認定団体として承認された。
これから、ランク3(森づくり安全サポーター)の習得者を多摩・横浜エリア内に増やし、ランク2(森づくりリピーター)の研修・審査活動を推進できる指導者を養成していく。

2)楽しい森づくり活動

森づくりの安全性と楽しさとは矛盾しない。しっかりと安全に活動することは、知的にも気分的にも楽しいはずである。
しかし、ただ指図に従っているだけでは、やりがいを感じにくいだろう。
反対に、参加する人びとが自ら考え、互いに意思を伝えながら、活動の成果を上げていけば、安全な森づくり活動を楽しくできるだろう。
そうするためには、指導者による適切な場づくり、コミュニケーションを促すフェシリテーションが求められる。

そこで、私たちはNPO法人日本環境保全ボランティアネットワーク(JCVN)と連携を図ることにした。
JCVNは、「安全で楽しい活動」の実現のため、数名~十数名のボランティアをリードして保全作業を進めていく現場リーダーの養成に取り組んできた。
イギリス最大規模の環境保全団体である英国環境保全ボランティアトラスト(旧略称BTCV/現TCV)の現場リーダー育成プログラムを土台に、日本の環境保全活動にフィットした現場リーダー養成プログラムを提案・実践している。

モリダスは、JCVNのリーダー養成プログラムを実践できる指導者を増やしていくとともに、テキストの制作や審査制度の確立なども進めていく。

3)価値ある森づくり活動

森づくり活動によって、森林のさまざまな(多面的)機能を高めることができるだろう。
森づくりの目的は、活動場所ごとに、ゾーンごとに異なるはずであるが、都市近郊の多摩・三浦丘陵に残る里山は、たとえ私有地であっても公共性が高く、環境的な価値、特に生物多様性という観点を外すことはできない。
森づくり活動が、どのように生態系サービスの向上につながるのかについて、調査し計画し活動し、さらにPDCAサイクルを回していく必要がある。
こうした観点から良くできた指針として、「横浜市森づくりガイドライン」を挙げることができよう。実際、横浜市では、このガイドラインを活かして、それぞれの活動現場の保全管理計画を市民協働によって作成している。

私たちは、このガイドラインを横浜市内に限定せず、多摩・三浦丘陵全体で活用していく。
そのためには、ワークショップを開きながら、現場ごとに丁寧な計画をつくることが求められるが、すでにNORAではテキスト『ミルマップ・ワークショップ!~みんなで描く森づくりプラン』を制作しているので、これを用いて森づくりの計画を立てることのできる指導者を養成していく。

4.里山ガバナンスの重要な役割を担うために

以上のように、私たちモリダスは、森づくり活動のリーダーに求められる専門性を3つに分解して、その向上を図っていく。
そして、こうした専門性を身につけたリーダーを輩出しながら、「楽しく、安全に、価値ある森づくり活動」が当たり前になるようにして、都市近郊の里山ガバナンスにおいて重要な役割を担うことを目ざす。
これが、新生モリダスのミッションである。

2018年5月1日
松村正治(NPO法人よこはま里山研究所 理事長)